世話人を決める

会の世話人は、必ず複数です。名誉職ではないので、間違っても、年功序列だとか、地域の名士だとか、町内会の役職などで決めないこと。
あくまでも、地域の人たちの代表であって、大きな裁量は持たないこと。
ある程度、腹の据わった人であること。
世話人全員が、サラリーマンの男性にならないこと。

なぜ、サラリーマンの男性ばかりにならない方がいいのでしょうか。
なぜなら、世話人は、それなりの激務になるからです。また、勤務先によっては、住民運動が盛り上がってくると、業者からの圧力がかかることもあります。

なによりも、住民集会や業者の説明会は、どうしても、平日の夜や土日に行われることが多いので、昼間に会社に行き、残業などの合間に、これらの活動をするということになると、精神的・体力的な負担はかなりのものになります。しかも、マンション紛争は、1〜2ヶ月の短期決着はまれで、数年がかりの長丁場になるのがふつうです。

(数ヶ月の短期決着の場合でも、建築にあたっての条件闘争で和解し、住民の要望通りの協定書が結べたとしたからといって、それですべてが終わるわけではありません。
実際に、業者がすべての約束を履行し、協定書通りの工事を行うか、という点では、マンションの建設が終わり、補償金等の支払いも終わり、さらに1年ほどが経過して、付近家屋に地盤沈下・風害・電波障害などの問題が起こらないことを確認できるまでは、完全に気を抜けないのです)

そうなると、超人的にタフな人ならともかく、並の人は参ってきます。

とくに、業者との紛争が正念場を迎えているときに、肝心の世話人が、残業や出張で、重要な集会や話し合いにしばしば出られない、緊急に動かなければならないときに動きがとれないとなると、運動そのものにも水をかけることになりかねないし、一方で、会社の仕事にも差し障りが出てきます。
いうまでもなく、自由に動ける時間がほとんどないので、調べものをしたりする時間はほとんどとれません。下手をすると、他の世話人が調べてきた資料などすら、ちゃんと目を通す余裕がなくなってきたりします。
これでは、業者に太刀打ちできるものもできなくなります。

ひどい場合は、数カ月も経たないうちに、世話人自身が体力的・精神的に疲れてきて、もうどうでもいいから早く自由になりたい、と魔がさしてきます。そんなときに、それを見抜いた業者からちょっとだけ譲歩した和解案を出されると、冷静な判断力を失って飛びつこうとしたり、早く決着をつけたい一心で、あくまで住民の主張を通そうと運動を続けている他のメンバーの足を引っ張ったりした実例もあります。
むろん、業者は弱いところをすかさず責めてきますから、それが原因で、分裂に持ち込まれたり、あるいは、本当に被害が大きくなる住民を無視して、一部世話人だけで、業者のちょっとした譲歩で勝手に手打ちにしてしまおうとしたケースも少なくないのです。

また、サラリーマンの方は、通常、平日の昼間には家にいないので、工事の騒音や振動、粉塵被害などを体感する機会が少ないため、被害の実感に乏しく、業者との交渉においても、「又聞き」の被害談しかできない場合があるというデメリットもあります。
どうしても、肩書きに縛られがちなので、住民交渉が進んできて、相手業者の管理職クラスが出てきたら、それだけで勘違いして舞い上がる人もいます。
また、交渉が長引いてくると、「所詮、大きな会社がいったん決定したことを変えることは無理」と弱気になったり、会社のいうことを聞かねばならないのが宮仕えのサラリーマンだからと、相手企業の担当者に妙な同情心や親しみを持ってしまう人が出てきたりすると、まさにそこをつけこまれたりもします。

以上の理由から、(けっしてサラリーマンだから駄目ということではありません)世話人のほとんど全員がサラリーマンという状況は、できるだけ避けた方が無難です。

では、専業主婦の方はどうでしょうか。

女性や高齢者の方は、実は運動のうえでは、きわめて有利です。
女子供を出されると、なんといっても、世間は弱いのです。
論理的に冷静に考えると、「健康な成人男性が、体調を壊すような環境被害」と「高齢者や子供が体調を壊す環境被害」、そのどちらが重度かといえば、もちろん、前者にきまっています。
でも、印象は、子供や高齢者、女性の方が強いのです。

ましてや、きょうびの専業主婦の方には、高学歴で、就業経験はいうまでもなく、海外経験、場合によってはボランティア経験などもあり、文章を書いたり、パソコンを操作したりすることが得意な方も少なくありません。
べつに高学歴やOL経験などがなくても、子供や家族のために、なまじの男性陣など及びもつかない、腹の据わった母の強さを発揮する素晴らしい方もいらっしゃいます。
また、収入の心配をあまりせず、昼間に動けるというのは大きなメリットです。昼間動けない配偶者の方と、夫婦で理想的な補完関係を作ることも可能です。

その一方で、どうしても、直接、一般社会と触れ合う経験から離れている方が多いので、残念ながら、自分の考えを筋道立てて述べることのできない方、目先の人間関係の好き嫌いなどに振り回される方、些細なことで動揺したり感情的になる方、他人の意向や雰囲気の影響を受けやすく、自分の意見がころころ変わってしまう方がいらっしゃいます。

自営業・自由業の方はどうでしょうか。

比較的、時間が自由になるという場合、そのメリットははかりしれません。
一般的に、年齢や学歴、肩書きなどではなく、個人の能力で仕事をするのが当然と考えている能力主義の人が多いので、会社の肩書きや地域のしがらみにとらわれにくく、現実的な判断ができる傾向があるのも特徴です
たまたま、建築士、弁護士、ライターやカメラマン、デザイナーなどの専門職の方が中心になる住民の中にいたりすると、これはもう、それだけで極めて有利なのはいうまでもありません。(そういう職種を目指して、勉強中、という方にとっても、これは逆に良い機会でしょう)
お店や事務所を経営しておられる方が、世話人や住民の会議などのために、営業時間外の事務所や店舗を使わせてくださったり、場合によっては、コピー機などの機材を実費で使わせて頂けたりするのも、非常にありがたい力となります。

問題は、いうまでもなく、自由業・自営業の方は、安定収入のある給与生活者ではないため、本業の仕事をしながら、運動に関わることになります。時間的自由度などでは、一般的には、サラリーマンの方たちよりははるかに有利とはいえ、急にまとまった仕事が入って、突然多忙になることもあります。
(自由業の多忙と、サラリーマンの方の多忙とは、レベルが違います)

職種によっては、業者から「仕事や物品を発注するから」などという、誘惑を受けやすい立場になってしまうこともあります。
自営業といっても、マンション経営などの不動産関係であったりすると、結果があまりにも住民寄りになると、同じ問題がいずれ自分の身にも降りかかってきかねないため、途中から運動の足を引っ張る方向に行かれる場合もあります。

また、一般的に自営業の方は、マイペースで仕事をするのに慣れていることが多いので、現実的にはサラリーマンや主婦の多い他の住民と、価値観や協調性、金銭感覚の違いが、トラブルになって出てくることもあります。

なお、「引退サラリーマン」あるいは「ご隠居さん」の方は、社会経験もあり、収入を気にせず、自由に動ける時間が多いという点で、一般論としては、世話人にむいているといえるでしょう。
若い世代の方たちと上手く連係プレイをすることができれば、大きな力となります。御高齢者というだけで、役所などとの交渉をするときにも、有利です。
ただ、現役の時の職種にもよりますが、有能な方とそうでない方との個人差が大きく、ご高齢でありながら、パソコンを使いこなし、あるいはそうでなくても、若い人たちとの情報交換を絶やさず、百戦錬磨の調整力や交渉力を発揮する素晴らしい御仁もおられれば、小さく凝り固まったご自分なりの「社会常識や社会通念」の思いこみに縛られて、若い人の意見を小馬鹿にして聞かず、「あれは無理、それも駄目」と、かえって足を引っ張るだけの老害系の方もいらっしゃいます。

以上、いろいろ書きましたが、これらのことと、地域の状況を考慮されたうえで、くれぐれも「実際に動ける方」複数という体制で、世話人グループをつくられるのが重要です。